食いしん坊のノラ2匹、
「食べる・書く・読む」を語りつくす夜。【後編】

『わるい食べもの』刊行を記念し開催された、著者の千早茜さんと三省堂書店のカリスマ書店員・新井見枝香さんによるトークショー。「知っている人のエッセイを読むとズルしている気がする」という流れから、話題はなぜか「野糞」や「昆虫食」に発展して……!? いま注目の「新井賞」創設秘話も明かされ、盛り上がったトーク後編です。(司会:八重洲ブックセンター・内田俊明さん)

野糞の本を読んでも格好つけられるのか


 
千早:エッセイ読むと聞きたいことが色々出てくるんですよ。こことかね……「本が好きという気持ちのうち何%かは、本が好きなわたしが好き」という文章に、私は「くうねるのぐそ」ってメモしてあるんだけど。
 
新井:えっ何? 野糞?
 
千早:私も20代の頃に同じように考えたことがあって……「もしや自分は本を格好つけるために読んでいるんじゃないか」と。伊沢正名さんという、写真家で野糞研究家の方が書いた『くう・ねる・のぐそ』という本当に面白い本があるんですけど、タイトルも表紙の絵もアレ(・・)で、アレ(・・)の写真の袋とじもついているの。「本が格好いいものならばこの本でも格好つけられるのか」と友人と電車で試してみたりしたんですね。
 
新井:まぁ本によるよね(笑)。でも私はどんな本でもやっぱり自意識が気になっちゃうなぁ。「野糞の本を読んでいるおもしろいオレ」っていう意識が気になる。
 
千早:自意識がわりと強いんですね。
 
新井:うん、すごく。自意識めっちゃ出てるエッセイ読んで、オレのこと嫌いにならなかった?
 
千早:それをここで訊くの(笑)
 


「生まれ変わったら一緒になろうね」(By松田聖子)の気持ちがようやくわかった

新井:「わるたべ」には担当編集者との関係がちょこちょこ出てくるけど、すごくいいよね。あとがきとかさ。編集者と作家のいい関係ってあると思うんだけど、私はなんかうまくできないんだよね。なんかさぁ、嫉妬しちゃうの。「私のこと大事だ好きだって言うけど、いま他の人のこと考えてない? ホントに大事なの?」って。すねてみちゃったりする。
 
千早:めんどくさいな(笑)。それは恋人じゃないですか。私はそういう感情がゼロで、対面してやりとりしているときは集中してほしいけど、そうじゃない時に相手がどう考えていようが興味がないんだよね。人間の気持ちなんて変わって当たり前だし。私自身、24時間大事だと思える存在は妹しかいないから(笑)。
 
新井:そうか……私は編集さん相手だとへんな依存心が出ちゃうんだよなぁ。「わるたべ」は、このゲラの束を見ると、編集者とすごくたくさんやりとりしていてびっくりした。愛のあるコメントがたくさんだよね。みんなここまでするもんかなぁ。
 
千早:愛っていうか、やりとりがケンカみたいになってるけど(笑)。編集者にも色んなタイプがいると思う。細かくやる人も、全体的に見ることを重視する人もいて。色んな人と仕事ができるのはありがたいし、私は仕事相手には恵まれていると思います。私、「生まれ変わったら一緒になろうね」って言葉にずーっと違和感があったんですけれども。
 
新井:松田聖子(と郷ひろみとの破局会見)の発言だっけ?
 
千早:そう。小さい頃にTVで観て、「じゃあなんでいま一緒にならないの?」「恋愛って何なんだ」とわからなくて。成長して何人かと恋愛をしてもやっぱり理解できなかったんだけど、最近やっとわかったの! 仕事相手とは、「生まれ変わってもこの人と仕事がしたい」と思うんですよ。この人とやりたい仕事がたくさんあるのに、自分の一生分では時間が足りないと思うことが多くて……作家になってようやく、あの発言の意味がわかりました。

新井賞の意外な創設秘話

新井:「わるたべ」もそうだけど、もっと前から、ちはやんの作品にオレは「巻き込まれた感」があるんだよね。最初は、ここにいる(八重洲ブックセンターの)内田さんから巻き込まれたんです。
 
内田:えっ急に何ですか、びっくりした。
 
新井:静かだから寝てないかなと思って(笑)。内田さんは文芸誌を読んでいる珍しい人で、連載中から『男ともだち』を「これは素晴らしい」って大絶賛していたんだよね。ちはやんの本はそれまでにも読んでいたけど、『男ともだち』はちょっと感じがちがったから、どうなのかなぁと思っていて。でも内田さんがそこまで絶賛するなら……と私も読んだんです。
 
内田:そこから「新井賞」が始まったのね。
 
新井:そうそう。私たち、そんなわけで巻き込まれて今ここに至ってます。


今後メジャーになりそうな食べ物は昆虫食?

新井:この本に書けなかったネタとかもあるの?
 
千早:あまりに不謹慎なこととか……。T嬢から提案されたけれど採用しなかったのは、断食とかダイエットとかゲテモノ食い系ですかね。断食とかダイエットなんて、ぜったい嫌だ。
 
新井:ダイエットね……もういいよホント。でも「いい食べもの」はイヤイヤ食べに行った話があるよね。
 
千早:あれはやってよかったですね。私の毒舌が冴えわたったらしいので(笑)。
 
新井:ちはやんは一見、スーパーフードとかそういうの食べてそうなのにね。
 
千早:スーパーフードって何?
 
新井:なんかプチプチしたカエルの卵みたいなやつとか……(客席から「チアシード?」の声)。


千早:あぁ、チアシード。一度もらって食べたけど、お腹のなかでめっちゃ膨らんで、のど乾くしお腹痛くなるしで、のたうちまわった。
 
新井:それは食べ方を間違えたんじゃないの(笑)。
 
千早:うん。新しい食品って難しいと思った。いま残っている食べ物って、トマト1つにしても色々な地域で育てられて色々な食文化と関わってきて、おいしい食べ方が開発されてきたものなわけだから。
 
新井:今後、メジャーになる食べ物って何だろうねぇ。
 
千早:昆虫食じゃない? 栄養価高いしたくさんいるし……。
 
新井:昆虫はありですね。オレ、タケムシ食べたことあるよ。竹に入っている芋虫みたいなやつ。
 
千早:甘そう。
 
新井:なんでわかるの? 確かに甘かった。
 
千早:芋虫はミルキーそうだ。美味しいけどジビエは大変かも。この前、大阪でジビエ専門店に行ってハクビシンとかツキノワグマとか食べたんですけど、翌日、身体がすんごく臭くて。獣臭がすごかった。その点、昆虫は臭くならなそうだからいいんじゃないかな。

「嫌だ」と言えることって実は幸せ


内田:そろそろ時間が……最後にお二方から何かありますか?
 
新井:小説って、人に勧めるのすごく難しいよね。合わないと重荷になっちゃうし、相手も読み終えられないと気まずいし。この本は食べもののことだし、人に勧めやすいから、お客さんも誰かに勧めるといいと思うよ! ……こんなんでいいのかな(笑)。
 
内田:あの……、「食べることは生きること」ってよく言うし、その通りなんだけれど、本だと「栄養になる」とか「これがおいしい」とか、レシピ紹介なんかが多いですよね。でもこの本は、ほんとうの意味で「食べることは生きること」だっていうことを、色々な角度から教えてくれる本だと思うんですよ。身体の色々なところから、食べる=生きる、が染みこんでくるというか。
 
新井:オレもそれが言いたかった!(笑)
 
千早:うれしいです。これだけ食に関する悪いことばかり書いてきて、今とても感じているのが、「嫌だ」「嫌い」と言えるということは、それなりに愛を受けてきたんだなということですね。食のことを書くと自然に、人との関わりを書くことにもなっていて、そんななかで「嫌だ」と言える、つまり選択できるという、恵まれた環境に自分はいるんだと気づいて。「嫌だな」「嫌いだな」と言えることは実は自由で幸せなことなのだと、この本で伝えられたらいいなと思いました。
 
内田:本日は、ありがとうございました。

 
 

2018年12月11日(火)19:00~20:30
八重洲ブックセンター本店にて
構成:編集部

 
 

 
 

【プロフィール】
千早茜(ちはや・あかね)
1979年北海道生まれ。小学生時代の大半をアフリカで過ごす。立命館大学文学部卒業。2008年「魚神(いおがみ)」で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。同作で泉鏡花文学賞受賞。13年『あとかた』で島清恋愛文学賞受賞、直木賞候補。14年『男ともだち』が直木賞候補、吉川英治文学新人賞候補となる。近著に『クローゼット』『正しい女たち』『犬も食わない』(尾崎世界観との共著)『鳥籠の小娘』(画・宇野亞喜良)などがある。本書が初のエッセイ集。

 

 

新井見枝香(あらい・みえか)
1980年東京都生まれ。アルバイトで書店に勤務し、契約社員の数年を経て、現在は正社員として文庫を担当。文芸書担当が長く、作家を招いて自らが聞き手を務める「新井ナイト」など、開催したイベントは300回を超える。独自に設立した文学賞「新井賞」は、同時に発表される芥川賞・直木賞より売れることもある。著書に『探してるものはそう遠くはないのかもしれない』『本屋の新井』がある。

 

 

著者 千早茜プロフィール

千早茜(ちはや・あかね)
1979年北海道生まれ。小学生時代の大半をアフリカで過ごす。立命館大学文学部卒業。2008年「魚神いおがみ」で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。同作で泉鏡花文学賞受賞。13年『あとかた』で島清恋愛文学賞受賞、直木賞候補。14年『男ともだち』が直木賞候補、吉川英治文学新人賞候補となる。近著に『人形たちの白昼夢』『クローゼット』『正しい女たち』など、クリープハイプ・尾崎世界観との共著に『犬も食わない』がある。本書が初のエッセイ集。