#48

頭つるつるやけど

 そうそう、話はちょっと横道へそれるのだけれど──。

 こうして「ネコメンタリー」の撮影秘話を書きつづり、その原稿を納めたところ、連載担当T嬢から連絡があった。

「念のためご確認ですが、寺越さんと佐藤さんの実名を出すことは、ご本人とくに問題ないということでOKでしょうか? もし確認が必要でしたら、ご連絡先うかがえれば私のほうから確認いたしますので、ご指示くださいませ」

 さすがの、というかまあ当然の指摘に、私はたちまちびびった。

 文面こそすごく腰の低い感じだけれど、何しろウルトラクールな美女にして、新卒入社の頃からすでにベテランの落ち着きを備え、微笑みのもとにおそろしい毒舌を吐く彼女である。おおよそ20歳くらいは年下なのだが、年齢差と力関係というのは必ずしも比例しない。

 じつのところ撮影隊のおふたりは、同時期の「ネコメンタリー」に登場された作家の吉田修一さんのエッセイにもバリバリ実名で登場していたから(機内誌で読んだもん)、おそらく問題なかろうとは思ったものの、万一ということもありうる。ほんとに万一があったら、T嬢から静かに微笑みながら叱られる。

 そんなわけで私は、急いで寺越さんにメールを送り、問い合わせてみた。

 と、すぐに、ほっとするお返事が届いた。

「名前、もちろん大丈夫です。佐藤さんは、『つるつるの人』でもいいですと言っています(笑)」

 ……つるつるの人。

 これも念のためにここではっきりさせておくけれど、最初にそう言ったのは私ではない。〈もみじ〉である。

 私のTwitterのつぶやきはしばしば、大阪弁丸出しのもみじに乗っ取られるのだけど、その中で彼女自身が佐藤カメラマンのことを、「頭つるつるやけど」と言い、以後「つるつるの人」と呼ぶようになったのだ。そこには何の他意もない。ただ見たまんまが口からこぼれただけのことだろうと思う。

 ついでに言えば、我が家でのロケ中のある日、背の君がふと炎天のベランダへ目をやり、佐藤さんが〈銀次〉を抱き上げて赤ん坊のようにあやしている光景を目にするなり、タイトルをつけた。

「ハゲと毛むくじゃら」

 それも、まあ、見たまんまには違いなかった。

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著者 村山由佳プロフィール

村山由佳(むらやま・ゆか)
1964年東京都生まれ、軽井沢在住。立教大学卒業。1993年『天使の卵―エンジェルス・エッグ―』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2003年『星々の舟』で直木賞を受賞。2009年『ダブル・ファンタジー』で中央公論文芸賞、島清恋愛文学賞、柴田錬三郎賞を受賞。エッセイに『晴れ、ときどき猫背』など、近著に『嘘 Love Lies』『風は西から』『ミルク・アンド・ハニー』などがある。

猫プロフィール

  • もみじ(♀17歳 三毛)

    男を見る目のない作家のかーちゃんに付き添ってあちこちを転々とし、現在は長野県軽井沢町在住。半世紀も猫を飼ってきた飼い主をして「こんなに猫らしい猫を見たことがない」と言わしめる、村山家のお局様。

  • 銀次(♂10歳 メインクーン)

    体重8キロ、大柄だが気は優しく、犬にも人間にも動じない、村山家のお客様おもてなし担当。中身はたぶん、おばさん。

  • サスケ(♂3歳 黒のハチワレ)

    妹の〈楓〉とともに村山家の一員となった。極度のビビリの半面、とんでもない甘えん坊。鳴き声は常にひらがなで、「わあ」。

  • 楓(♀3歳 サビ色の三毛)

    サスケ兄ちゃんの鈍くささを嘲笑うかのように、わざと危ないところへ上ってみせるおてんば娘。銀次おじさまのことが大っ好き。短い尻尾がコンプレックス。

  • 青磁(♂9歳 ラグドール)

    真っ青な瞳の美しい貴公子だが、性格はやや屈折している。飼い主が亡くなったため、温かな南房総から軽井沢へと連れてこられた。ただ今、他の猫たちとの共存方法を模索中。怪鳥のように「めけぇっ」と鳴く。

本文写真・猫近影
村山由佳
著者近影 山口真由子