#01

まさかの5匹目

 4匹で、いっぱいいっぱいのはずだった。まさかここへきて猫がもう1匹増えるとは思わなかった。

 今年の4月、ちょうど桜の頃に、南房総で独り暮らしをしていた92歳の父が亡くなった。私たちがたまたまサプライズのつもりでお寿司を買って訪ねていくと、廊下にうつぶせに倒れていて、もう間に合わなかったのだ。

 後からの調べでわかったことだけれど、亡くなったのは私たちが見つけるほんの2時間ほど前とのことだった。何日もそのままという可能性だってあったかもしれないのに、たまたま私に東京での仕事があって、ついでに足を伸ばして訪ねていこうと決めた日に倒れるなんて、考えれば考えるほど不思議だった。呼ばれた、のかもしれない。

 もとより母は数年前から何もわからなくなってしまって施設に入っているので、父が可愛がっていた猫・9歳のラグドール〈青磁〉は、葬儀も何もかもが済んだあと、私たちの住んでいる信州・軽井沢まで連れて帰る以外になかった。


 しかし、先住猫たちが彼を受け容れるかどうか。

 最長老、17歳の三毛猫〈もみじ〉はまあ、特別待遇で奥の間に隔離されているからいいとしよう。

 10歳になる大きなメインクーンの〈銀次〉も、細かいことにまったくこだわらない呑気な性格だから大丈夫。

 問題は、〈サスケ〉と〈楓〉──もうじき3歳になる兄妹だ。もとはといえばスーパーの掲示板に「子猫生まれました」と張り出されていたのを見て、もらってきた猫たちで、身内には甘えん坊だが見知らぬものに対しては警戒心の強い、言ってみればとても猫らしい気質を持っている。

 彼らが、青磁を仲間と認めるだろうか。さらには青磁自身が、新しい環境に馴染めるのかどうか。

 いろいろと心配ごとはあったけれど、ものごとというのはすべからく、なるようになるし、なるようにしかならない。

 父が元気だった頃よく一緒に出かけたホームセンターで、ひときわ頑丈そうなキャリーケースを買い、青磁を車に乗せて家へ連れ帰った。


更新は終了しました

本連載をまとめた単行本は、ホーム社より今秋刊行予定です。 最新情報はTwitterでお知らせします。

著者 村山由佳プロフィール

村山由佳(むらやま・ゆか)
1964年東京都生まれ、軽井沢在住。立教大学卒業。1993年『天使の卵―エンジェルス・エッグ―』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2003年『星々の舟』で直木賞を受賞。2009年『ダブル・ファンタジー』で中央公論文芸賞、島清恋愛文学賞、柴田錬三郎賞を受賞。エッセイに『晴れ、ときどき猫背』など、近著に『嘘 Love Lies』『風は西から』『ミルク・アンド・ハニー』などがある。

猫プロフィール

  • もみじ(♀17歳 三毛)

    男を見る目のない作家のかーちゃんに付き添ってあちこちを転々とし、現在は長野県軽井沢町在住。半世紀も猫を飼ってきた飼い主をして「こんなに猫らしい猫を見たことがない」と言わしめる、村山家のお局様。

  • 銀次(♂10歳 メインクーン)

    体重8キロ、大柄だが気は優しく、犬にも人間にも動じない、村山家のお客様おもてなし担当。中身はたぶん、おばさん。

  • サスケ(♂3歳 黒のハチワレ)

    妹の〈楓〉とともに村山家の一員となった。極度のビビリの半面、とんでもない甘えん坊。鳴き声は常にひらがなで、「わあ」。

  • 楓(♀3歳 サビ色の三毛)

    サスケ兄ちゃんの鈍くささを嘲笑うかのように、わざと危ないところへ上ってみせるおてんば娘。銀次おじさまのことが大っ好き。短い尻尾がコンプレックス。

  • 青磁(♂9歳 ラグドール)

    真っ青な瞳の美しい貴公子だが、性格はやや屈折している。飼い主が亡くなったため、温かな南房総から軽井沢へと連れてこられた。ただ今、他の猫たちとの共存方法を模索中。怪鳥のように「めけぇっ」と鳴く。

本文写真・猫近影
村山由佳
著者近影 山口真由子