#番外

【04】できたての、ほやほやの、命たち

※村山由佳著『晴れ ときどき猫背』(2002年/集英社刊)より一部抜粋。前回に続いて、「ねこいき」本編の重要な登場人(猫)物である〈もみじ〉さんの誕生秘話をお届けします。

 

【『四匹のエイリアン』の巻 より抜粋】

 ミュウ!

「あ!」

 もう一度、前より大きく、ミュウ!

 どっと力が抜けた。同じようにへたりこんでいる相方と顔を見合わせる。

 手も足も、すぐには立てないくらいガクガクしていて、仕方なく這いずっていって真珠の後ろからそっとのぞいてみると、彼女が食べていたのは子猫を包んでいた羊膜だった。どうして正しいやり方を知ったものやら、子猫(うわ、ハムスターかこれは!)の鼻につまった水分をなめ取って息ができるようにしてやり、びしょ濡れの体もなめてきれにし、さらには後から出てきた胎盤をきっちり食べて始末する。

 様子を見て産箱に誘ってみると、真珠はやっと中に入って、すぐにそこで二匹目を産み始めた。お互い、さっきよりは落ち着いていた。

 それから真珠は一時間くらいかけて、ほぼ十五分ごとに一匹ずつ、全部で四匹の子猫を産み落とした。一匹目は黒白のブチ。二匹目は真珠そっくりのモヤモヤの三毛。三匹目が白地にちいさいブチで、最後が絵に描いたような三毛。どの子もみんな、しっぽが長くてまっすぐだ。

 隅から隅までなめてもらったおかげで、子猫たちの濡れた毛はすぐに乾いてふわふわになった。柔らかさも頼りなさも、まるで耳かきの先っぽについている羽毛みたいだ。

 みゅう、きゅう、みーう、みゃーう……四匹が重なり合い、もつれて転がっては、少しでもよく出るおっぱいを獲得しようとさっそく競いあっている。

 それにしても、なんという小ささ! それでいて、吸いついたおっぱいをもみしだくこの前足の、なんという力強さ!

 たったいま、目の前でこの世に産み落とされた、できたての、ほやほやの、命たち。

 徹夜明けの眠い目をしょぼしょぼさせながらも、私たちは、なかなかその場を離れることができなかった。

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著者 村山由佳プロフィール

村山由佳(むらやま・ゆか)
1964年東京都生まれ、軽井沢在住。立教大学卒業。1993年『天使の卵―エンジェルス・エッグ―』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2003年『星々の舟』で直木賞を受賞。2009年『ダブル・ファンタジー』で中央公論文芸賞、島清恋愛文学賞、柴田錬三郎賞を受賞。その他の小説に『放蕩記』『ワンダフル・ワールド』『La Vie en Rose ラヴィアンローズ』「おいしいコーヒーのいれ方」シリーズなど、エッセイに『晴れ、ときどき猫背』『楽園のしっぽ』などがある。

猫プロフィール

  • もみじ(♀17歳 三毛)

    男を見る目のない作家のかーちゃんに付き添ってあちこちを転々とし、現在は長野県軽井沢町在住。半世紀も猫を飼ってきた飼い主をして「こんなに猫らしい猫を見たことがない」と言わしめる、村山家のお局様。

  • 銀次(♂10歳 メインクーン)

    体重8キロ、大柄だが気は優しく、犬にも人間にも動じない、村山家のお客様おもてなし担当。中身はたぶん、おばさん。

  • サスケ(♂3歳 黒のハチワレ)

    妹の〈楓〉とともに村山家の一員となった。極度のビビリの半面、とんでもない甘えん坊。鳴き声は常にひらがなで、「わあ」。

  • 楓(♀3歳 サビ色の三毛)

    サスケ兄ちゃんの鈍くささを嘲笑うかのように、わざと危ないところへ上ってみせるおてんば娘。銀次おじさまのことが大っ好き。短い尻尾がコンプレックス。

  • 青磁(♂9歳 ラグドール)

    真っ青な瞳の美しい貴公子だが、性格はやや屈折している。飼い主が亡くなったため、温かな南房総から軽井沢へと連れてこられた。ただ今、他の猫たちとの共存方法を模索中。怪鳥のように「めけぇっ」と鳴く。

本文写真・猫近影
村山由佳
著者近影 山口真由子