23 猫に歴史あり・その3


 なあなあ、この写真、本邦(ほんぽう)初公開やねんけど誰や思う? 

 ま、目ン玉の青ぉ〜いのんでわかるわな。せや、青磁(せいじ)や。正解。ちっちゃい頃から、ボーッととりとめのない顔しとるやろ。

 今でこそ偏屈で凶暴なオッサンやけど、最初からああやない。かーちゃんが、年とった両親の間にちょっとでも会話が増えたらなあ、思て実家へ連れてった当初は、めっちゃ甘ったれの子猫で、目が()うただけで足もとからよじのぼってきて首に巻き付くくらい人なつこかってんて。

 けど、かーちゃんの母親のキミコさんがだんだん、いろんなことわからんようになってしもてな。「うちは昔から猫なんか大嫌いや!」て、誰もが初耳なこと言い出しはって、青磁のことも邪魔っけにするようになって、おまけにキミコさんが施設に入ってからは、耳の遠いシロさん(ひと)りだけになってしもたやろ? そんな家ん中であのコ、けっこう寂しい思いしてきよってん。

 ほんでも、シロさんには良う懐いててんで。シロさんのほうかて、脚が悪なってからもずっと、青磁のごはんと水とうんちのことだけはちゃんとしてくれたはった。

 そのシロさんがいきなり倒れて、そのまんま動かんようになった時──そばにおったんは青磁だけやった。何が何やら、わけわからんかったんちゃうかなあ。呼んでも呼んでも目ぇ覚ましてもらわれへんのん、きっと辛かったやろ。結局は、お葬式の後でかーちゃんととーちゃんが連れて帰ってきて、青磁もこの家の一員になった、ちゅうわけや。

 うち、あのコとはずっと別々の部屋におったからほとんど(しやべ)らずじまいやったけど、昔、シロさんには何べんか()うたことあるし、亡くならはった後でかーちゃんがどんだけしんどかったかも知っとる。

 せやから、青磁には、なるべく幸せになってほしなあて思うねん。あの頑固もんがいつか膝に乗って甘えること覚えたら、かーちゃんもとーちゃんもどんだけホッとしよるかわからんもん。

 焦ることはないわな。気長に見守っといたろか。



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著者 村山由佳プロフィール

村山由佳(むらやま・ゆか)
1964年東京都生まれ、軽井沢在住。立教大学卒業。1993年『天使の卵―エンジェルス・エッグ―』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2003年『星々の舟』で直木賞を受賞。2009年『ダブル・ファンタジー』で中央公論文芸賞、島清恋愛文学賞、柴田錬三郎賞を受賞。エッセイに『晴れ、ときどき猫背』など、近著に『嘘 Love Lies』『風は西から』『ミルク・アンド・ハニー』などがある。

猫プロフィール

もみじ(永遠の17歳 三毛)

本連載の主人公。房総・鴨川で誕生したが、なぜか関西弁。男を見る目のない作家のかーちゃんに付き添ってあちこちを転々とし、長野県軽井沢町で今生を旅立った。半世紀も猫を飼ってきた飼い主をして「こんなに猫らしい猫を見たことがない」と言わしめる、村山家のお局様。

  • 銀次(♂10歳 メインクーン)

    体重8キロ、大柄だが気は優しく、犬にも人間にも動じない、村山家のお客様おもてなし担当。中身はたぶん、おばさん。

  • サスケ(♂3歳 黒のハチワレ)

    妹の〈楓〉とともに村山家の一員となった。極度のビビリの半面、とんでもない甘えん坊。鳴き声は常にひらがなで、「わあ」。

  • 楓(♀3歳 サビ色の三毛)

    サスケ兄ちゃんの鈍くささを嘲笑うかのように、わざと危ないところへ上ってみせるおてんば娘。銀次おじさまのことが大っ好き。短い尻尾がコンプレックス。

  • 青磁(♂9歳 ラグドール)

    真っ青な瞳の美しい貴公子だが、性格はやや屈折している。飼い主が亡くなったため、温かな南房総から軽井沢へと連れてこられた。ただ今、他の猫たちとの共存方法を模索中。怪鳥のように「めけぇっ」と鳴く。

本文写真・猫近影
村山由佳
著者近影 山口真由子