18 横文字のネズミ


 昔はうち、よう外から獲物くわえて帰って、かーちゃんの足もとへ置いたったもんや。鳥とかネズミとか、モグラとかヘビとかな。

 心をこめたプレゼントやのに、まったく喜んでもらわれへんかった。庭先に、ちっちゃいお墓がようけ増えただけ。

 あ、ちなみに、鳥やらネズミは甘ぁいけど、モグラは不味(まず)いねん。目ぇ()うただけで気絶しよるから、つまらんしな。あと、ヘビはめんどくさい。いっぺん頭にきよったらめっちゃしつこいねんもん、こりごりやわ。

 

 ああ、懐かしなあ、うちの生まれた鴨川の里山一帯。縄張りのパトロールに出かけてはいろんな冒険して、そらそれで(たの)しい日々やった。

 ほいでも、ずーっとあの調子でほっつき歩いとったら、セブンティーンになるまでかーちゃんと一緒にはおられへんかったんちゃうかなあ。どっちがええ? て()かれても、うちはよう答えんけど。

 

 家ん中だけで暮らすようになってから、うちの獲物は、もっぱらこいつや。かーちゃんはわざわざ横文字で呼んどる。あほやろ。ネズミごときでカッコつけんなや。

 これ、枕にもなるしな、抱えこんでいたぶったりもできるし、おもろいで。机から床に落としたったら、何や丸くて固ぁい棒みたいなんが二本飛び出して、コロコロ転がっていきよる。あれ何やろな、こいつの内臓かな。

 ほんまのこと言うたら、何べん落っことしたったかわからん。もう死んどるかもしらん。

 うちがやったて、かーちゃんには黙っといてな。


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著者 村山由佳プロフィール

村山由佳(むらやま・ゆか)
1964年東京都生まれ、軽井沢在住。立教大学卒業。1993年『天使の卵―エンジェルス・エッグ―』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2003年『星々の舟』で直木賞を受賞。2009年『ダブル・ファンタジー』で中央公論文芸賞、島清恋愛文学賞、柴田錬三郎賞を受賞。エッセイに『晴れ、ときどき猫背』など、近著に『嘘 Love Lies』『風は西から』『ミルク・アンド・ハニー』などがある。

猫プロフィール

もみじ(永遠の17歳 三毛)

本連載の主人公。房総・鴨川で誕生したが、なぜか関西弁。男を見る目のない作家のかーちゃんに付き添ってあちこちを転々とし、長野県軽井沢町で今生を旅立った。半世紀も猫を飼ってきた飼い主をして「こんなに猫らしい猫を見たことがない」と言わしめる、村山家のお局様。

  • 銀次(♂10歳 メインクーン)

    体重8キロ、大柄だが気は優しく、犬にも人間にも動じない、村山家のお客様おもてなし担当。中身はたぶん、おばさん。

  • サスケ(♂3歳 黒のハチワレ)

    妹の〈楓〉とともに村山家の一員となった。極度のビビリの半面、とんでもない甘えん坊。鳴き声は常にひらがなで、「わあ」。

  • 楓(♀3歳 サビ色の三毛)

    サスケ兄ちゃんの鈍くささを嘲笑うかのように、わざと危ないところへ上ってみせるおてんば娘。銀次おじさまのことが大っ好き。短い尻尾がコンプレックス。

  • 青磁(♂9歳 ラグドール)

    真っ青な瞳の美しい貴公子だが、性格はやや屈折している。飼い主が亡くなったため、温かな南房総から軽井沢へと連れてこられた。ただ今、他の猫たちとの共存方法を模索中。怪鳥のように「めけぇっ」と鳴く。

本文写真・猫近影
村山由佳
著者近影 山口真由子