03 阿南(あなん)さんのこと―ウェルギリウスがダンテの目をふさいだように―死体が発見されました

     ※

 

 阿南さんは、毘沙門天の中心に立っていた。
 たしかにメールのやりとりでは、「それでは1時間後に。毘沙門天の前で待っています」とあったが、本堂をふさぐようにして待ち受けているとは思わなかった。ひょっとして僕がくるまで、ずっとこうしていたのだろうか。
 僕に気づいた阿南さんが、本堂からこちらを見下ろす。世を憂う哲学者のコスプレでもしているつもりか、重苦しい表情を浮かべていた。この人が僕の担当編集者であり、シリアルキラーの話を書けと焚きつけた張本人でもあった。
 4年半ぶりの再会だったが、「どもですー」「あ、どうも」くらいの、最後に会ったのが先月くらいのテンションで挨拶したあと、阿南さんは僕を1軒の店に連れて行く。そこがなんというか、風情はあるけど風格はない安居酒屋だったことにがっかりした僕は、「阿南さんも、こんな店に入るんですね」と、つい云ってしまった。
「日本には、くつろげる店が減ったからな。煙草(たばこ)が吸えて、若い女のいない店は、今や、こういうところしかない」
「てっきり、日本食が恋しくなったのかと思いました」
「洋行したナショナリストを気取るつもりはないが、ヨーロッパより日本の外食のほうがずっと豊かだよ」
「だからってべつに、こんな居酒屋じゃなくてもよくないですか。阿南さんは、もっとこう、バーでウイスキーとか、個室ですき焼きってイメージなんですけど」
「きみは俺のことを、どんな目で見ていたんだ」
「バブリーでアントワネットなイメージ」
「よくわからんが、一流レストランの食事になんて、なんの憧れもないからな。禁煙で落ちつかない店にわざわざ行くなんて、馬鹿らしくてやってられん」
 阿南さんはそうかもしれないが、少なくとも今日の僕は、こんなシケた居酒屋じゃなくて、瀟洒(しょうしゃ)な洋食店でボルドーワインなんかを飲みたかった。というのも……これからものすごく気持ちの悪い告白をするけど……夫婦喧嘩で死にたくなって、玉川上水をうろついていた僕は、そんな自分のことを、恋人と口論して傷ついた若い女の子というロールプレイでやっていたのだ。だけど実際の僕はアラフォーだし、阿南さんは心の機微を感じ取る能力がはじめから欠落していた。
 乾杯もそこそこに、おたがいの近況を報告する。僕の暮らしはさほど変わっていなかったが、阿南さんのほうはいろいろあり、ひと月ほど前に家族全員で日本に戻ってきて、これまで勤めていた出版社の関連会社に再就職したようだった。阿南さんの口から、「再就職」という現実的なことばが出たとき、僕は奇妙なあせりを抱いた。
 阿南さんは1杯目の紹興酒を飲み干してから、
「それで、メールにも書いたが、原稿の件できみに話がある。事態が進展したんだ。れいの原稿を、うちの会社で引き取ることになった。もちろん俺が担当する。あのつづきを、俺といっしょに書かないか?」
 はじまったのだ。こんどこそ本当に。
 僕はふたたび、その思いを強くした。
 とあるシリアルキラーについて書いた僕の原稿は、いささか複雑な問題をかかえていたせいもあって、雑誌の編集部から、「人を傷つけない文章を書いてほしい」と云われて突き返されてしまったが、健全な方向性で修正することで、なんとか掲載してもらえた。しかし……修正の副作用とでもいうべきか……いくつかの決定的なシーンまで削ったことで、枚数と内容にちょっとした不足が生じてしまった。
 ようは、つづきを書く必要が生まれたわけだ。
 僕はもちろん、そのことを編集部にもつたえた。だけど編集部はのらりくらりと返答を先延ばしにするばかりで、今後の方針を打ち出そうとせず、そのため、原稿が雑誌に載って数年がたった今もなお、ほとんど話が進んでいなかった。原稿のつづきを書いてもいいのかどうかさえ僕は知らない。情報がまったくこない。おかげで被害妄想がどんどん広がるのだった。
 ひょっとして編集部は、原稿を凍結させるつもりでは?
 編集部のだれもがこの件にかかわりたくないから、イエスともノーとも云わないことで、永遠に保留しつづけるつもりでは?
 真相はどうあれ、長いことこんな状態だったので、あの原稿を、阿南さんの再就職先に移すというのは、なかなかの妙案に思えた。一応、他社ではなく関連会社に持っていくわけだから編集部の面子(メンツ)は保たれるし、すべての責任を阿南さんがとってくれることにもなる。
 だけどここで安心モードになってはいけない。被害妄想はそうかんたんには消えないんだぞ。
「あの、確認しますけど、その話って、阿南さんの脳内だけで進んでるってオチじゃないでしょうね。ちゃんと、いろんな人の許可を得ているんですよ……ね?」
「心配なのか」
「心配ですよ」
 云われるままに書いた原稿が編集部からNGを出され、そのあと、僕と原稿をほったらかしにして、急に海外に行った阿南さんを、実務的な意味で信用するのはむずかしい。
「じつはな、帰国した直後から、少しずつ交渉をつづけていたんだ」
「そうだったんですか」
「若干、ややこしいことはあったが、最終的にはうまくまとまったよ。これでようやく、すべてが思い通りに運ぶ。原稿は完全に、俺たちのものとなった」
「おお」
「きみは書きたいことを書けばいい」
「おお!」
「というわけで、つづきを書いて、さっさと話を完結させよう」
「お断りします」
 僕の返事が予想外だったのか、阿南さんはめずらしく、わかりやすい表情になった。
「どうして断るんだ。なにがそんなに心配なんだ」
「いや、そういうのじゃなくて、あの原稿を書いたのは何年も前だし、僕たちが事件現場のツアーに行ったのなんて、さらに前ですよ」
「時間の経過に、なんの意味がある」
「僕、もう38歳です。太宰が心中したときとおなじ年齢」
「断る理由になっていない。それに俺と事件現場を回ったときも、きみは30代だったろ」
「今の僕は、少年犯罪にもシリアルキラーにも、全然ちっとも興味ないんです」
「興味が、ない?」
「そんなびっくりした顔しないでください。阿南さんとツアーに行ったときは、まだそういうものに接点を感じられたけど、今は、なんにも思うところがありません。今の僕は、どこにでもいるお父さんです。シリアルキラーとか云われても、正直、きついんですよね」
「なるほど。もしかして、きみは」
「はい?」
「きみは今、幸せなのか?」
 人生大満足。
 そのはずだ。
 なので僕は、自分の人生がいかに幸福かということを説明したのだが、そうしているうちに、学生時代にまったくモテなかったことを思い出して悲しくなり、ヤケになってビールを飲み、「占星術でも信じれば、救われるのかもしれないな」という阿南さんの珍言におどろいて、「占星術! しいたけ占いですか!」と、ゲラゲラ爆笑しながら叫んだというわけだ。

 

     ※

 

「しいたけ占い? なんだそれは。しいたけを使った伝統的な占いなのか?」
 阿南さんは、本日何杯目になるのかわからない紹興酒に口をつけた。
「ちがいますよ。なんですか、『しいたけを使った伝統的な占い』って。じゃなくてですね、しいたけって名前の占い師なんです」
「なぜ、しいたけなんだ」
「僕に聞かないでくださいよ。それより阿南さんが、占いを信じてるなんて意外でした。占星術なんて、アレじゃないですか。人生に行き詰まったOLっぽいじゃないですか」
「どうも誤解しているようだが、俺は占いを信じる人間……いや、オカルトを信じる人間には、きわめて否定的だよ」
「あれ、え? だって」
「まず、精神と物質や、論理と経験といった、いわゆる二元論に限界があるのは当然だ。そもそもヒトの認識能力に限界があるわけだからな」
 阿南さんは煙草に火をつけると、僕には理解のできない面倒な話をはじめて、僕はそれを懐かしく思う。
 れいのシリアルキラーについてどうやって書くべきか、阿南さんと打ち合わせをしていたときも、いつのまにかダンテだのスピノザだのが出てきて、わけがわからなくなることがよくあった。こういうとき僕は、阿南さんには悪いが、いつもオカルティックな感覚を味わっていた。
 阿南さんはまだなにかしゃべっている。
「そのいっぽうで、東洋思想の連中は、心と体は同一だと考えるし、一神教であれば、その場所には神がいる。このようにオカルトや宗教は、そうしたものを『信仰』しているが、俺はたんに、認識の限界という事実から類推しているにすぎない。だからまあ、そうした類推をする俺自身よりも、上位に位置する認識をみとめることにはなるが、そうはいっても、べつに神を『信仰』しているわけじゃないんだ……このちがい、わかるか?」
「わかるわけないじゃないですか」
「もう少し砕いて説明すれば、アリストテレスが云う『真理』も、カントが云う『物自体』も、ダンテが云う『世界の根源』も、結局のところ、精神と物質、心と体の狭間にしか存在しないということさ。俺たちは超人じゃないから、ヒトの認識能力を超えた場所からものを見ることはできない」
「ちっとも砕かれてないですけども、とりあえず阿南さんは、星占いが正しいなんて思ってはいないんですね?」
「占星術が正しいかどうかは、最初から問題ではないよ」
「もう全然わからん……」
「俺たちが追いかけた14歳のシリアルキラーは、逮捕後、たくさんの人々に分析された」
 阿南さんがいきなり話の筋を戻したことにおどろいた僕は、飲みかけのビールをのどに詰まらせて、少しむせた。
「唐突ですね」
「唐突なものか。きみと会ってから、俺はこの話しかしていないよ」
「え、えー?」
「まあ聞け」
 阿南さんは仕切り直すように、やや時間をかけて煙草を吸ってから、
「きみ、おぼえているか。逮捕後、少年の『心の闇』……事件の真実が注目されただろ。なぜあんなことをやったのか、なぜあそこまでしなければならなかったのか、だれもが興味を持った。それは猟奇事件にたいする単純な好奇心だけじゃない。あの事件が、同時代の鬱屈、いわば、彼らを取り囲む壁の正体と、密接に関係しているかのように見えたからだろう」
 あのシリアルキラーに対する「共感」の数は、ちょっと異様なくらいだった。
 残された謎や、彼の心を解読しようとする事件の「関連本」が書店のあちこちに置かれ、テレビは事件の話でもちきりで、大人も子供も彼の気持ちがわかると公言したり、もっと極端な場合だと、彼に心酔してうっとりしたりと、まるでみんな、彼自身となって、好き勝手にしゃべり散らしているようだった。むろん、この手の錯乱は、エポックメイキングな事件が起こるたび、毎度くり返されてきたものなのだろうが、それでも僕は、当時の狂ったテンションと、それに呑みこまれた自分自身を思い出すたび、今でも軽い戦慄が走る。
「あのころは僕も、事件の真相を自分なりに推理したものです」
 僕は正直に云った。
「少年の『心の闇』を表現できれば、自分がかかえている問題もことばにできる。そう考えた連中は多くいただろう。だがもし本当に自分の心を覗きこんだりすれば、その人間は壊れてしまうだろうがな」
「なにが壊れるですって?」
「『神曲 地獄篇』の第9歌、ディースの城壁でゴルゴンの首が登場したとき、ウェルギリウスはダンテの目をふさいだが、あれはどういう意味かわかるか?」
 いきなりテストがはじまった。
 そのエピソードについては、以前、阿南さんからレクチャーを受けたことがあったし、原稿を修正するときに、ネタとして使ったような気もするが、今となってはなにもおぼえていなかった。
「えーと、ゴルゴンの首はメドゥーサだから、見ると石になっちゃう……とか?」
「大きくまちがってはいない」
「あれま」
「ゴルゴンの首が象徴するものは、『知ってはいけない真実』だ。つまり、それに直面してしまうことで、ダンテのような人間でさえ、みずからを滅ぼすことになりかねないものがあることを示唆している。その危険から逃れるためには、ときとして、目を閉ざす必要もあることをつたえるために、ウェルギリウスはダンテの目をふさいだのさ」
「それって、ミイラ取りがミイラになるってやつですか?」
「この場合は、『深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているのだ』を使ってほしかったが」
 阿南さんは自分の発言がおもしろかったらしく、口もとだけで小さく笑いながら、
「まあ実際、彼の『心の闇』も、彼を取り囲む壁も、彼自身にさえわからないのだから、他人がいくら考えたところで、答えなんて出てくるわけがない。だが、問題自体はすでに判明している。じつにシンプルなものだ。すべては、自分たちの前にある巨大な壁……『なにか』が問題となっているんだ」
「だからその『なにか』ってなんです?」
「真理だよ」
「アリストテレスの?」
「人間には、つねにもっとも大事な真実が隠されている。俺たちに見えるのは、ドーナツのような世界だけで、その中心を知ることはできない。仏教における『空』だよ。だが、認識の限界を超えられない俺たちにも、逆の発想で考えれば、ゴルゴンの首が見せる真実を暴くことができる」
「はあ」
「みずからを滅ぼせば、これはあくまで比喩だが……真実は見えてくるはずなんだ」
「やっぱりわかんないですよ。阿南さんはつまり、なにが云いたいんです?」
脚下照顧(きゃっかしょうこ)
「はい?」
「禅寺の玄関によくあるだろ。自分の足もとをよく見て書いたほうがいいと云っているんだよ」
「……自分自身と向き合えってことですか?」
「俺はきみに、シリアルキラーと向き合ってほしいなんて考えちゃいない。そもそもきみは、現実に生きる人間を虚構として描くのではなく、虚構に生きる人間を現実的に描くのを得意とする小説家だったはずだ。虚構に生きる人間というのは、この場合、きみ自身のことだ。だから俺はこの仕事を、きみに依頼したんだ」
 まさか阿南さんが、僕をずっと説得していたとは思わず、さらには、よくいるまともな編集者みたいなことをラストに云ってきたので、とにかくおどろいた。
 そして僕が虚構の中を生きているというのは本当だろうか。結婚しても子供が生まれても、愛したり愛されたりしても、家や車を買っても、どうにもうまく現実感を得られなかったり、妻のことや自分のことを深く考えようとすると、強い抗鬱剤でも飲んだように頭がぼーっとして思考が進まなくなるのはそのせいなのか。
 だとすれば。
 だとすれば。
 ほら、やはり考えがストップする。そこから先にあるはずのことばが見当たらない。この現象が、阿南さんが言及する巨大な壁……「なにか」によるものだとすれば都合がいいなと思った。僕の「思う」は、いつだってこのていどなのだ。
 僕とおなじく、今は30代となったあのシリアルキラーは、なにをしているだろう。結婚しているだろうか。子供はいるだろうか。悩んだり考えたり怒ったり笑ったりしているだろうか。
 こうして、一度は遠ざかったはずのシリアルキラーが、またしても阿南さんの手によって運搬されてきたので、僕は自分自身を守るため、とりあえず苦笑した。空になったいくつものビールジョッキに、なんとなく視線を定める。自分がこれまでの人生で、何杯のビールを飲んできたのかはおぼえていないが、心から飲みたかったのは、そのうちの10杯にも満たないだろう。そう思うと、自分にも「心」とか「意思」とかいったものがあるように感じられて愉快だった。
「阿南さん」
「なんだ」
「今さら書けと云われたって、その、こまるんですよ」
「もう興味がないから? それは本当なのか?」
「そりゃもちろん、阿南さんが、あの原稿を完結させようとしてくださってるのはうれしいですよ。でもやっぱり、そんなテンションじゃないんです。2人でツアーに行ったのも、原稿を書いたのも、それを編集部がNGあつかいしたのも、みんなずっと前のことですから、なにもおぼえてませんし」
「そんなことはないだろう」
「本当なんです。からっぽ。印象ゼロ。今の僕はそれくらい、あの事件のことがどうでもよくなっちゃってるんですよ。もしまた彼の町に行ったとしても、たぶん、なにも得られないと思います」
「それならそれでいい。あの町は俺たちにとって、すでに通過した地獄だからな」
 阿南さんは煙を吐きながらつぶやくと、ふと顔を上げて、
「これはまあ……アドバイスというほどじゃないが、きみは地獄の先を書くしかないと思う。今こうして、自分が生きている天国のことを書くしかないと思う」
「天国?」
「きみがあのとき書いた原稿は、殺人事件の舞台を歩くという、いわば地獄めぐりだった。『神曲』に対応させれば、『地獄篇』に該当するパートだ。ならば今回は、『神曲』の完結部である『天国篇』を書くのが、正しい流れじゃないかな。そして天国というのは、きみ自身が望んで手に入れた場所、つまり、今あるこの日常のことだ。だから……うん、そうだな、話の導入は、この居酒屋でのトークとかでもいいかもしれない」
「ここが天国の入り口なら、僕のいる天国ってのは、ずいぶん安っぽいところですね」
「安っぽくない天国を見つけるのは、簡単じゃないさ」
「まあ、そうかも」
 僕たちの知っている天国は、ひどく激安で、ステロタイプなものばかりだった。
「かつて俺たちは、『地獄篇』という地図をたよりに、シリアルキラーが跋扈(ばっこ)した町を探索した。そして今回のミッションは、『天国篇』という地図を使って、俺たちの暮らす、この東京の日常を探索することだ。俺たちは地図を広げて、ひそかな計画を練る2人のスパイというわけさ。そんな俺たちの背後には、広大なダンテの世界が広がっている」
 ダンテを手引きに、自分たちの暮らす東京の日常を探索する。
 あいかわらず、阿南さんの云っていることは謎かけみたいだったが、しかし同時に、これこそが正解であるという確信めいたものを、僕はたしかに感じていた。
 これまで僕は、修正によって削った生々しい場面や、当時の自分の熱量などを再現しなければ、嘘っぽいというか、逃げているというか、不誠実だと思っていたのだが、なるほど、38歳となった僕の実感を記述することが、あの原稿のつづきを書くことになるというのであれば……やれるかもしれない。
 阿南さんはスマートフォンに視線を落として、
「終電、そろそろか?」
「あ、はい。そろそろ、かも」
「かも?」
「僕、終電の時間ってよく知らないんですよ」
「年が明けたら、また会おう。それまで、原稿のこと、ちゃんと考えてくれよ。きみの天国にかかわる問題だからな」
 阿南さんは自分の云いたいことをすっかり云ってしまうと、これで話は終わりだとでもいうように、煙草を灰皿に押しつけた。
 こうして僕たちは、4年半ぶりの再会を終えた。
 帰り道の途中、スマートフォンが震えて、妻からLINEが入った。
 ここは天国。なのにそれを確認する勇気はなかった。

 

     ※

 

 年が明け、のろくさしているうちに4月になり、新元号が発表された。
 令和という、厨二っぽい響きをふくんだ、ストレートすぎる格好よさを持つそれは、僕の気分をほんのちょっとだけ回復させた。少なくとも、春の新作アニメや、1人で飲む発泡酒よりは、僕の人生に関係のあるものだったらしい。
 状況説明は今回でおしまいです。
 いわゆる、「これまでのあらすじ」というやつは、大体理解していただけたと思います。そして粗筋のあとには本文がやってこなければ詐欺というもので、僕は山師だが詐欺師ではないから、よいものを書くと誓いましょう。どうぞみなさん、憂鬱と恍惚の合間にでも読んでください。
 さて、4月のある日、井の頭公園で死体が発見されたというニュースが入った。
 僕はさっそく、息子と一緒に現場に向かうことにした。

 
(04につづく)

毎月更新

更新情報はTwitterでお知らせしています。

佐藤友哉(さとうゆうや)プロフィール

佐藤友哉(さとうゆうや)1980年北海道生まれ。2001年『フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人』でメフィスト賞受賞。2007年『1000の小説とバックベアード』で三島由紀夫賞を最年少で受賞。他の著書に『クリスマス・テロル invisible×inventor』『世界の終わりの終わり』『デンデラ』『ナイン・ストーリーズ』『転生! 太宰治 転生して、すみません』等がある。