5 ゲームの記憶

 僕はゲームが好きです。

 

 ここで言うゲームとは、今日もどこかで子供たちがお母さんに「ほどほどにしなさい!」と怒られながら遊んでいるであろう、いわゆるテレビゲームのことです。

 

 今でこそ、ゲームはインターネットに接続して、離れた場所にいる誰かと一緒に遊べるものとなりましたが、僕が多感な頃はインターネットも黎明期(れいめいき)。父親がホームページ・ビルダーをお手本にしながら、変なMIDIのくっついたサイトをひそかに作成、誰かのページのキリ番をゲットしたらお礼を言っていたという時代であり、ゲーム機が世界につながるなんていうのは夢のまた夢。
 基本的にゲームは一人で遊ぶものであり、誰かと遊ぶ場合は、その人を家に呼ぶか、あるいはその人の家に行って横に並んで遊ぶものでした。

 

 僕も小学生の頃、誰かの家に遊びに行ってゲームをした記憶があります。

 

 近所に住んでいたA君の家に、ファミコンソフトの『ダウンタウンスペシャル くにおくんの時代劇だよ全員集合!』を持って遊びに行きました。

 

 これは「くにおくんシリーズ」のキャラクターが江戸時代の任侠(にんきよう)物語を演じたゲームで、二人で協力しながら敵を倒してストーリーを進めていくことが出来ます。味方同士のパンチやキックは当たらないので、ストレスなく戦うことが出来る爽快(そうかい)なアクションゲームなのですが、唯一、味方が投げた武器だけは当たるとダメージを受けるというシステムでした。

 

 そしてゲームの中盤、大勢の敵と大乱闘している最中、A君が投げた武器が僕の操作するキャラクターに当たってしまい、そこで死んでしまうという事件が起きました。幸いにもこのゲームには『ゲームオーバー』という概念がなく、やられたら所持金が減った状態で復活出来るので、すぐにプレイ再開。

 

 すると、大乱闘を繰り広げる中、またもやA君が投げた武器が、僕の操作キャラクターに当たりました。
 これが故意なのか、それとも事故なのか、混戦状態にあったので判別がつきません。

 

「あっ、ごめん」
 A君は謝りました。

 

 それがあまりにもアッサリしていたからでしょうか。
 当時の僕は『今のはわざとじゃないか?』と思ったのです。

 

『A君は混乱に乗じてわざと僕を殺そうとしている』
『A君はこのゲーム内のお金を(かろ)んじている』
『そもそもA君は僕を軽んじている』

 

 同じ思いを味わわせてやろうと思った僕は、A君に向けてわざと武器を投げました。
 敵との戦いで体力を減らしていたA君は、僕の投げた武器のダメージで倒れ、しばらく明滅を繰り返した後、多くの所持金と共に消滅しました。

 

「あっ、ごめん」
 僕はわざと軽々しく謝りました。

 

 それが地獄の始まりです。

 

 先述の通りこのゲームは『ゲームオーバー』という概念がなく、ステージの端に行ったりどこかのお店に入ったり、画面を切り替えることで仲間プレイヤーを復活させることが出来るのですが、強制的に味方を復活させてはそのキャラクターに武器を投げ、投げられた側もまた武器を手に取り投げ返すという凄惨(せいさん)(みにく)い争いが始まりました。

 

 二人ともいつしか無言になり、ゲームの目的を忘れ、画面内にいる敵を無視し、ひたすら相手を傷付けることに終始しました。

 

 二人横並びで遊んでいるのに、一つも楽しくありません。

 

 その日、どうやってゲームを終わらせたのかよく覚えていませんが、その日を境に僕がA君の家に遊びに行くことはありませんでした。

 

 とても苦い記憶です。

 

 その後の僕は『誰かと横並びでゲームをする』という行為から遠ざかり、一人でもくもくと遊ぶことが増えた気がします。

 

 そして時代が進み、インターネットの発展と共にゲーム機も様々な変化を()げて、今では気軽に誰かと一緒にゲームが出来るようになりました。

 

 大人になった僕もオンラインで様々な人とゲームを楽しんではいるのですが、ただ、少人数で誰かと競う対人ゲームだけはどうも苦手です。
 反面、誰かと協力するゲームには、とても魅力を感じています。共に困難に立ち向かう種類のゲームは、やっていてとても楽しいです。

 

 ひょっとすると、あの日のA君との大乱闘が影響しているのかもしれません。

 

 あの時、僕の心がもう少し広かったら、あるいは違ったゲームライフを送れていたのかもしれないなぁ……と、今でも思い出すのでした。

 
 

教訓
ゲームはほどほどに。
『ほどほど』とは、時間のことではないのです──賽助

毎月第2、第4火曜日更新

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賽助プロフィール

賽助(さいすけ)
東京都出身、埼玉県さいたま市育ち。大学にて演劇を専攻。ゲーム実況グループ「三人称」のひとり、「鉄塔」名義でも活動中。また、和太鼓パフォーマンスグループ「暁天」に所属し、国内外で演奏活動を行っている。著書に『はるなつふゆと七福神』(第1回本のサナギ賞優秀賞)『君と夏が、鉄塔の上』がある。
●「三人称」チャンネル
ニコニコ動画 https://ch.nicovideo.jp/sanninshow
YouTube https://www.youtube.com/channel/UCtmXnwe5EYXUc52pq-S2RAg
●和太鼓グループ「暁天」
公式HP https://peraichi.com/landing_pages/view/gyo-ten



山本さほプロフィール

山本さほ(やまもと・さほ)
1985年岩手県生まれ。漫画家。2014年、幼馴染みとの思い出を綴った漫画『岡崎に捧ぐ』(ウェブサイト「note」掲載)が評判となり、会社を退職し漫画家に。同作(リニューアル版)は『ビッグコミックスペリオール』での連載後、単行本が2018年に全5巻で完結した。その他の著書に『無慈悲な8bit』『いつもぼくをみてる』等。Twitter上でも1頁エッセイ漫画『ひまつぶしまんが』を不定期に掲載。